破産管財人の弁護士Sを訴えた訴訟 被告らの答弁
訴えの事実をほぼ認める内容。こんな免責調査でも正当?
⑳ 不適切な破産管財を行った第二東京弁護士会の弁護士Sに訴訟提起 の続きです。
エムが申し立てた債権者破産で、破産管財人だった弁護士Sは、破産者に不利益な事実を調査・報告せず、破産者側の言い分を鵜呑みにして「破産者は協力的であった」と免責許可相当の意見書を出しました。
この破産は免責不許可事由である「浪費による破産」で、裁判官が裁量免責を許可するかどうかが問題でした。裁判所は、破産管財人が調査して報告する「免責意見書」の内容によって、破産者に裁量免責を許可するかどうかを決めます。このため破産管財人は、破産者が裁量免責に値するかどうかを厳正に(公平・公正に)調査して裁判官に報告する義務があります。
しかしS弁護士は、破産者に不利になる事情については故意に裁判所に報告せず、破産者の嘘の説明を看過して、破産者に都合のいい免責意見書を作成して裁判所に報告しました。この破産管財業務は不当・違法であるとして、エムはS弁護士に対して訴訟を提起しました。(破産法85条の「破産管財人の善管注意義務」違反での慰謝料請求です。ショボいですけど。)
エムが問題としたS弁護士の違法不当な破産管財業務(おもに免責調査)は、具体的には以下のことです。
- 破産者の月100万円以上の使途不明金について調査せず、そのことを裁判所に報告しなかった。(もちろん、浪費に使われたとしか考えられません。)
- 破産者の「虚偽申告による借入」を調査せず、そのことを裁判所に報告しなかった。(破産管財人に送られてきた契約書の写しを見れば一目瞭然の虚偽申告です。)
- 破産手続が開始された後の破産者のクレジットカード利用について調査せず、そのことを裁判所に報告しなかった。(これは免責を前提としたクレジットカード利用で、詐欺的なものです。S弁護士は、転送されてきたクレジットカード利用明細書を見てもいませんでした!)
- 裁判所に債務額を誤って報告した。(10件のうち1つの債権を計上し忘れた+破産債権を財団債権と間違えた)(これは、破産管財人としてありえない無能さで、不適任ということでもあります。)
上記1〜3については、破産管財人であったS弁護士は、破産者に有利になるように取り計らったとしか考えられません。それは、厳正であるべき破産管財人の業務行為として許されるものではないし、「社会正義を実現する」べき弁護士の行為として大問題です。
また、裁判所の「使用者責任」(民法715条1項)に基づいて、国にも連帯賠償を求めてみました。裁判所は破産管財人に対して選任・監督の関係にある(破産法74・75条)からです。(国への請求は、国賠法1条1項の国賠請求ではなく、国賠法4条+民法に基づく損賠請求です。)
S弁護士の代理人弁護士から第1・第2準備書面、国の指定代理人から準備書面(1)が提出され、原告のエムはそれらに対して準備書面を提出しました。(共同被告の片方から第1準備書面、もう片方から準備書面(1)とされると、原告はちょっと困りますね。ふつうは原告が第1準備書面、被告が準備書面(1)とすることが多いのですが。)
1 被告S弁護士の準備書面
被告のS弁護士の準備書面は突っ込みどころ満載で、反論が面倒でした。「原告エムの主張」に対する「被告Sの主張」(言い訳)について以下に説明します。
・原告エムの主張した事実1
破産管財人であったS弁護士は、平成27年6月の、破産者の100万円以上の使途不明金(消費者金融からの借用計80万円程度、自分の信金口座から17万円引き出し、給与月20~30万円。なお、残高不足で家賃10万円は引き落とされなかった)について調査せず、裁判所に報告しなかった。
被告S弁護士の第1準備書面 ↓
被告(破産管財人S弁護士)の反論まとめ
- 平成27年6月の破産者の使途不明金について、破産者本人が「収入が減ったので、消費者金融から借入して生活費に充てた」と説明したので、その使途不明金(100万円以上)は生活費に使われたのだろうと判断した。
- このため、破産者の100万円以上の使途不明金は、免責の許否に重大な影響を与える事情ではないと判断して調査せず、裁判所に報告しなかった。
(ちなみに、破産者は平成27年2月以降もホストクラブに通っていたと破産管財人に説明していました。)
・原告エムの主張した事実2
S弁護士は、平成27年6月の破産者の「虚偽申告による借入」(預貯金総額が5000円以下だったのに預貯金100~199万円と申告して契約したクレジットカードで、20万円をキャッシングした)を調査せず、裁判所に報告しなかった。
被告S弁護士の第1準備書面 ↓
被告(破産管財人S弁護士)の反論まとめ
- 破産者のその「虚偽申告による借入」は、破産者の説明によれば浪費のための借入とは限らないし、クレジットカード会社から免責に対して意見は出なかったし、20万円と少額だったから、免責の許否に重大な影響は与えるものではない。
- たとえ免責不許可事由にあたるとしても、それが軽微な場合、裁判所は裁量免責を許可することが多い。
- そう考えて、破産者の「虚偽申告による借入」を裁判所に報告しなかった。
・原告エムの主張した事実3
破産者は、破産手続開始申立・破産手続開始決定後もクレジットカードを利用し続け、その上で支払不能として免責許可申立を行った。これは「免責前提のクレジットカード利用」の可能性が高いのに、被告S弁護士はそのことを調査せず、裁判所に報告しなかった。
被告S弁護士の第1準備書面 ↓
被告(破産管財人S弁護士)の反論まとめ
- 破産手続開始決定後のクレジットカード利用(月10万円前後)について、破産者にヒアリングし、破産者代理人に照会したところ、それは携帯電話料金だと聞いた。
- 携帯電話の料金は生活上必要なものだし、その金額も浪費といえるほどではないから、免責の許否に重大な影響を与えるものではないと判断して裁判所に報告しなかった。
(原告が主張した「破産管財人に転送されてきたクレジットカード利用明細書をS弁護士は確認しなかった」という事実について、S弁護士は認否しませんでした。)
結局、S弁護士は、破産者と破産者代理人から話を聞いただけで(通常行われるような免責調査はせずに)、「それらは、裁判官による裁量免責の決定に重大な影響を与える事情ではない」と決め付けて、それらの事情を裁判所に報告しなかった、と主張しました。(もちろん上記1~3は「裁判官による裁量免責許可の決定に影響を及ぼす事情」なのは明らかで、平均的な破産管財人ならばそれらを精査して裁判所に報告するのが当然です。)
< 破産法 >
破産管財人の免責調査の業務は、破産法250条1項の規定どおり、「裁判所が裁量免責の許可の決定をするかどうかの判断に当たって考慮すべき事情」を調査して、それを裁判所に報告することです。S弁護士は、破産者のいかにも嘘っぽい説明を信用して、それらの「裁判所が裁量免責の許否にあたって考慮すべき事情」について調査せず、裁判所に報告しなかった。でもそれは、「それらの事情は裁判所の裁量免責決定の判断には重大な影響を与えない」と破産管財人が判断したからで、破産管財人の裁量の範囲内だと主張したわけです。
しかし、破産法252条2項は「裁判所は…一切の事情を考慮して…免責許可の決定をする」と規定しており、「裁判所の判断に重大な影響を与えないだろうと管財人が考えたら、裁判所の判断に影響を及ぼす可能性のある事情について報告しなくていい」などという規定はありません。少なくとも、上記1〜3のような重大な事情を「裁判所の判断に重大な影響は与えない」と破産管財人が決め付けて裁判所に報告しないなどということは一般的にはありえないことで、弁護士Sの上記行為(不作為)は破産管財人の業務として適正でないことは(通常人なら誰でも疑いを挟まない程度に)明らかです。
ところで、S弁護士の主張が本当ならば、破産者は破産管財人に虚偽の説明をしたと考えざるを得ません。それは免責不許可事由(法252条1項8号)に該当するし、破産者は不誠実であるとして裁量免責を許可されない事由になりえます。しかしもっと重要なことは、破産管財人のS弁護士は、破産者の説明が虚偽である可能性を当然分かっていたはずなのに、あえてそれを調査せず裁判所に報告しなかったということです。破産者のこんな無茶苦茶な(いかにも嘘くさい)説明をそのまま信じて、何も調査しないで裁判所に報告しないなんて、ふつうの破産管財人ではありえないことです。
とすると、「破産者と破産管財人は、破産者を裁量免責とするために共謀して裁判所をだました」ということになるのかもしれませんね。
上述したとおり、破産管財人のS弁護士が裁判所に提出した免責意見書には、破産者の不利益につながる上記1~3の「裁判所が裁量免責の許可の決定をするかどうかの判断に当たって考慮すべき事情」については記載されず、破産者は反省していてもう浪費はしていない、破産を繰り返す蓋然性は低い、破産者は破産手続きに対し協力的だったなどと記載され、「免責不許可事由はあるが裁量免責相当である」とS弁護士は意見しました。そして、その破産管財人の免責意見書をもとにして裁判官が行った免責許可決定も、上記1~3の「裁判所が裁量免責の許可の決定をするかどうかの判断に当たって考慮すべき事情」については何の記載もなく(破産管財人がそれらを報告しなかったからですが)、免責意見書記載のとおりに「破産者は破産管財人の調査等に協力した」などとして裁量免責が許可になりました。
担当裁判官(東京地裁民事20部 蓑川雄一)は、破産者と破産管財人の企てにまんまとだまされてしまったようです。
破産管財人の悪意ある企ては成功し、不誠実な(悪質な)破産者は免責になりました。たとえ破産者が、1 浪費で破産になっても、2 説明のできない多額の使途不明金があっても、3 申立前1年以内に虚偽申告により詐欺的に現金をだまし取っても、4 破産が決定した後も免責になることを前提にクレジットカードを詐欺的に使い続けても、5 管財人にウソの説明をしても、それらの事情を調査せず故意に意見書に記載しなかった破産管財人S弁護士のおかげでこの破産者は免責許可になり、楽天カードからだまし取ったほとんどのお金(元金返済は8000円だけ)も、破産手続開始後に免責前提で詐欺的に使ったクレジットカード利用(20万円程度)も免責になりました。
東京地裁民事20部(破産・再生部)の裁量免責、やっぱり「ザル」ですね。モラルハザードはなはだしいです。本件に関してはぜんぶこの弁護士Sが悪いんですけど。
もし破産管財人が、破産者の上記1〜3の事情をきちんと調査し、破産者が破産管財人に虚偽の説明をした(←犯罪です)ことも明らかにして、法律の規定どおりに裁判所に報告していたら、「破産者は不誠実性が著しく、悪質性が重大である」として、裁量免責が許可されなかった可能性が高いです。(裁量免責は「不誠実ではない」破産者に許可されます。しかも、この破産者はもともと支払可能を主張していたくらいですから経済的な更生は必要ありません。)
弁護士会に懲戒請求しても、このS弁護士の不当な破産管財業務は「弁護士としての品位を害する行為とまでは認定できない」として、何のおとがめもありません。(→⑯弁護士懲戒請求4) 弁護士Sのこんなイカサマ業務を弁護士会では黙認です。弁護士のこのくらいの違法不当な業務行為はふつうのことで許容範囲内だというのが二弁の見解なんでしょう。こんな「弁護士自治」では弁護士への信頼が失われて当然ですね。
ちなみに、エムはこの破産申立で、手数料2万円と管財事件予納金50万円を支払いました。弁護士である破産管財人が厳正に詳しく調査・報告してくれるのなら、この金額でも意味があると考えたからです。しかし、破産管財人のS弁護士は、何の調査もせずに破産者のウソくさい話をうのみにしてイカサマな意見書を書いただけ?(当該破産事件は、異議のない債権10件のみで換価・配当なし。事務的な作業は事務局の担当者が行いました。)
そして、その破産管財業務に対し、S弁護士は管財人報酬として50万6814円を受け取りました。破産者が免責になったこと自体は別に構わないのですが(エムの債権は法253条1項2号に該当する非免責債権だから)、厳正な破産管財を期待して債権者破産を申し立てたエムは、イカサマ弁護士に50万円だまし取られた感がして納得いきません。こんな「厳正でない」イカサマな破産管財人、ありえますか?
もしかしたら、裁判所もこんな不当な弁護士の業務を見て見ぬふりして、イカサマ管財に一役買ったのかもしれません(東京地裁ですから)。S弁護士の無茶苦茶な破産管財業務のせいで、弁護士に対しても、弁護士会に対しても、東京地裁に対しても、そしてなによりも、厳正であるべき破産管財人および破産管財制度に対する信頼が大きく毀損されました。
2 被告国の準備書面
原告のエムは、破産管財人であった弁護士Sの破産管財業務を不当・違法であるとして訴訟を提起しましたが、破産管財人を選任して監督すべき裁判所にも使用者責任があるとして、裁判所を所管する国に損害賠償を求めました。
エムは訴状で、「本件の破産管財人の行為は国賠法のいう公権力の行使には当たらず、破産管財人の違法な破産管財業務により原告が被った損害について破産管財人自身が賠償責任を負うことは前述の通り(破産法85条)だが、裁判所にも使用者責任(民法715条)があり、これについては裁判所を所管する被告国が賠償責任を負う。」と主張しました。これはつまり、本件の国への請求は国賠法1条1項によるものではなく、国賠法4条により民法715条の使用者責任の規定に基づくものであるということです。
しかし、それに対して被告国は、
と、国賠法1条1項の適用について縷々主張しました!
原告が「破産管財人の行為は国賠法のいう公権力の行使には当たらず」として(つまり国賠法1条1項の適用ではなくて)、国は使用者責任(民法)により賠償責任を負う(つまり国賠法4条適用)と説明しているのに、国(法務省の訟務官?)は訴状をちゃんと読まないで、「裁判官がした争訟の裁判についての国賠請求」に対する鉄板テンプレをなにも考えずコピペしたんでしょうね。バカの一つ覚え?
そして、肝心の使用者責任については、
「破産管財人は、裁判所の下部機関ではなく、破産財団の管理処分について独自の権限を有する破産手続上の独立機関であるから、破産管財人と裁判所との間に被用者及び使用者の関係はなく」とだけ反論しました。
原告は、裁判所は破産管財人に対し選任義務(破産法74条)・監督義務(破産法75条)があるから使用者責任があると訴状で主張したのですが、被告国はこのことについて直接的には反論しませんでした。今回の被告国の答弁の内容は、「破産者管財人は裁判所の下部機関ではない」(から使用者責任は生じない?)、「独立機関であるから」(使用者責任が生じない?)、「独自の権限を有する」(から何?)というだけで、原告が主張した使用者責任を否定するには要領を得ない説明でした。(法務省の人間なら)判例とか通説を挙げて、もう少し論理的に「裁判所は破産管財人に対して使用者責任はない」ということを明確に主張すべきだったのに(訴えと関係のない国賠法1条1項についてうだうたと説明するくらいなら!)、残念ながら法務省からの答弁はこんなpoorな内容でした。
もし、被告国が、裁判所と破産管財人には(選任・監督関係はあっても)「指揮」関係がないから使用者責任に問えないとか反論したら、原告は「裁判所と破産管財人とは実質的に指揮関係にあった」ことを立証するつもりだったのに、被告国の手抜き答弁のせいでそれは先送りです。
3月6日追記
第3回口頭弁論が開かれました。裁判官(東京地裁民事第48部 長井清明)と被告S代理人は打ち合わせ済みだったようで、とても不自然で強引な進行が行われました。前もって打ち合わせしてるとそれを隠そうと応対がぎこちなくなるので、はたから見てるとバレバレです ^ ^)
裁判官も、よくこんな不正できるもんですね。しかも、素人にもバレバレとかみっともないです。こんな腐った裁判官(東京地裁民48 長井清明)には、早く裁判官辞めてほしいです!
…という話については、のちほど詳しく説明します。